■ 特殊形状タイルへの挑戦から始まったプロジェクト
今回のプロジェクトは、個人のお客様から届いた「特殊形状のタイルをつくりたい」という一通のご相談から始まりました。依頼主は、オーストラリア出身の女性・ローズさん。いただいたデザインを見た瞬間、そのダイナミックさと緻密さに驚き、「これがタイルになったらどんな表情を見せるのだろう?」と胸が高鳴りました。
ローズさんが送ってくださったイメージ。

特殊形状タイルは、数量や型製作、試作の負担が大きく、個人の方の依頼では実現が難しいケースがほとんどです。しかし今回は、ローズさんの想いとデザインへの情熱に触れ、「ぜひ一緒に挑戦したい」とタイルメイドとして心から思えた案件でした。
■ 今回のデザインは、古文書の図様を現代に蘇らせた「マスタイル」
ローズさんの着想の源は、「古文書に残る図様を、現代の素材で再び息づかせたい」という願いでした。オーストラリア出身でありながら日本文学に魅せられ、長年古文書研究を続けてきたローズさん。その深い知識と観察眼は、私たちのものづくりにも新しい視点をもたらしてくれました。
今回の魚タイルは、その思想を体現した幾何学模様の “マスタイル(Muster Tile)” の一作 です。
今回制作した魚タイルは、幾何学模様の“マスタイル(Muster Tile)”シリーズの一作。題材となったのは、1899年のウィーン工房《Ver Sacrum》に掲載された魚の意匠です。120年以上前に描かれたデザインを、美濃焼の技術によって立体的に再構築し、歴史的図様を現代の空間へと復活させる試みとなりました。
■ 魚タイルづくりは3Dデータからスタート
制作は、まず3Dデータでの造形試作からスタートしました。
- 生き物の柔らかな曲線
- 幾何学的な線のパターン
- 図様特有の独特なフォルム
これらを“焼きもの”として成立させるためには、繊細な立体化作業が欠かせません。


試作を重ねるごとに、厚みや角度、細部の凹凸が焼成後の表情に大きく影響することが分かり、非常に神経を使う工程となりました。
具体的には、
- 厚みのわずかな差による形状の変化
- 釉薬の濃淡で生まれる表情
- 目の深さ(0 → 0.5mm)で変わる印象
- 尻びれの立ち上がり角度がもたらす影響
- 焼成ムラが“揺らぎ”として現れる瞬間
こうした細部について、ローズさんにメールや画像を送り相談し、丁寧なフィードバックをいただきながら、形を整えていきました。

さらに、釉薬量のテストや濃淡試験を行い、魚たちが連続して並んだときに“泳ぎ出すように見える”表情を意図的に生み出しました。

完成したタイルは京都の古民家の水まわりに施工され、唯一無二の世界観を描き出しています。
■「気づけば魚」——発見と感動が生まれる空間へ
出来上がった壁面は、一見すると魚とは分からないほど抽象的でありながら、近づくほどに細部の造形が浮かび上がり、魚たちの姿が自然と見えてくる仕掛けになっています。

遠くからはパターンとして、近くでは生き物として。
その二重の表情が、見る人に“発見”と“感動”をもたらす特別な空間をつくり出しました。

■ タイルメイドにとって、特別なプロジェクトとなった理由
今回あらためて感じたのは、美しいタイルは「技術」だけでなく「誰とつくるか」で決まるということです。
ローズさんの穏やかさ、誠実さ、文化への深い敬意、そしてデザインを読み解く鋭さ。そのすべてが、この魚タイルを特別な作品へと導いてくれました。
現在、マスタイルの量産化と新たなデザイン制作にも取り組んでいます。今年の夏には、ローズさんが東京から岐阜を訪れ、工場をご案内することもできました。


この魚が、いつか世界のどこかで泳ぎ出す日を楽しみにしています。
地域の魅力をタイルで伝えるお手伝いを、これからも続けていきたいと思います。
その土地ならではの想いや風景に寄り添い、より良い形づくりに関わっていければ幸いです。
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