◼︎依頼背景

今回ご依頼くださったのは、
一級建築士事務所 YY architects 様。
お施主様がテレビ番組を通してTILEmadeを知り、
「特注タイルをゼロからつくる会社が岐阜にある」
ということを知ってくださったことから、このプロジェクトは動き始めました。
■ “建物に刻まれた風合い”を再現するという挑戦
― 元タイルの分析から始まった開発プロセス
旧印刷所の外観を特徴づけていたタイルは、
すでに製造終了しており、同じものを入手することは不可能。
そこでまず、実物タイルを採取していただき、細部まで分析しました。
観察したポイントは以下です:
- 釉薬の細かな粒子感
- 経年によって生まれた深み
- 光の吸い込み方・反射の仕方
- 焼きによるムラと陰影のニュアンス
- タイル寸法の個体差と古い焼き物特有のゆらぎ
1枚1枚を、「色は?」「焼きむらの癖は?」「経年でどう変化したか?」
という視点で読み解いていきました。
■ “記憶の色”を玉川釉薬とともに再現
― 数十パターンのテストから導き出した答え
採取したタイルを基に、玉川釉薬と協働で釉薬の再構築を行い、
数十種類のテストピースを制作。
目指したのは、
「新品でも復刻でもない、“この建物だけが持つ時間の色”」。
古さの再現ではなく、懐かしいけれど、どこか新しさも感じられる
そんな表情を目指して釉薬づくりを進めました。
■ 再現タイルの中で生まれた“薄め”と“濃いめ”の2つの表情
― 施釉量の違いが生む奥行き
試作を重ねる中で、最終的に薄め、濃いめの2つを軸として採用しました。
さらに、一色の中に表情の揺らぎをつくるため、
釉薬量を 1.5g/2.0g/2.5g の3段階で調整。

試作の結果、
釉薬量の違いで 色の深み・粒子の出方・焦げ感の強弱 に
明確な差が生まれることがわかりました。
- 1.5g … 明るく軽やかな印象
- 2.0g … 元タイルに最も近いバランス
- 2.5g … 経年したような焦げ色が強まり重厚
この“自然な揺らぎ”が、
まさに元タイルが持つ風合いに非常に近く、
空間に深みを与える要素となりました。
■ 仕上がったタイル ― “過去と現在をつなぐ姿”
完成したタイルは、
旧印刷所の懐かしい面影を宿しながら、
リノベーション後のスタジオに新たなアイデンティティを与える存在となりました。
光の角度によって表情を変え、
一枚一枚の釉薬の奥行きが柔らかく揺らぐ。
その姿はまさに、
“この場所にしかない物語”を語るタイルです。
新しいヒトノワスタジオが持つ
「人が集まり、つながり、創造が生まれる場」としての役割。
その入り口となる面を、このタイルがさりげなく支えています。
過去の印刷所の記憶を引き継ぎつつ、
新しい空間に違和感なく馴染む。
そのバランスこそ、今回の特注タイルが果たしたい役割です。
■ TILEmade コメント
今回のプロジェクトは、
タイルで建物の記憶を残す
という、私たちにとっても貴重な取り組みでした。
タイルは単なる建材ではなく、
“その場所に刻まれた時間を未来へ渡す器”になり得る。
そのことを改めて実感した案件です。
■ プロジェクト概要
- クライアント:西濃印刷 ヒトノワスタジオ
- 建築設計:一級建築士事務所 YY architects
- 用途:印刷所 → スタジオへのリノベーション
- タイル:特注タイル(色再現)
- 内容:色分析・釉薬再現・焼成調整・意匠提案

